マリア様がみてる 妹オーディション

マリア様がみてる 妹オーディション


江利子が決めた妹選びの期限が迫り、あせる由乃がとんでもないことを言い出す。
妹を公開オーディションで決めるというのだ。さすがにこれには祐巳志摩子も反対、
かわりに祐巳も含め、二年生と一年生でお茶会をすることになるのだが…!?


【発売日】2005/04/01  【全編書き下ろし】本文224ページ
http://www.mangaoh.co.jp/topic/maria.php

由乃がやってくれました(笑)。
「まさか、本気なの?由乃ぉ…」っていう情けない令の姿が目に浮かびます。
確かに「祐巳志摩子も反対」って書いてありますけど、
さて、反対されればされるだけ燃える黄薔薇一家の妹さんが、
果たして「そうですか」と、この案を下げるのかどうか。


今さら新キャラを出すとは思えないので、瞳子と可南子以外の線は無視。
としたら、由乃には瞳子しかいない。
ってことで、理由は後述するとして、そう言う場合を考えた時に、
とっさに思いついた文章(設定)。

だから、お祖父様が経営する病院でその人を見たのは、本当に偶然だった。
親戚の祥子お姉さまはロサ・キネンシス・アン・ブゥトンだったし、
山百合会には前々から興味があったので、顔と役職くらいは頭に入っている。


三つ編みの美少女は、ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンプティ・スール島津由乃さま。
その隣に座っている美少年、もとい美少女はロサ・フェティダ・アン・ブゥトン支倉令さま。
由乃さまが長い間病気を患っている話は有名だった。
中等部時代には仲睦まじく歩く二人のお姿を何度も見かけた。
しかし、カウンター越しにのぞき見たこの光景はいったい何なのだろう。
由乃さまが、あろうことか手に持っていた果物籠で令さまを叩いているではないか。
はじめは驚きだけだったが、時間とともに別の何かが自分の中に湧きおこり始めた。
それが何なのかは分からない。
私は目を逸らすこともできないまま、可愛いお顔を茹でだこのように真っ赤にして怒る、
島津由乃という人間をずっと見ていた。


月日は流れ、今にも雪が降りそうな天候の中、
高等部のグラウンド脇で中等部の制服を着た女の子がせっせと化粧をしていた。
彼女の家には舞台で使うと称して買ってもらった変装グッズが山ほどある。
しかし、彼女は小道具がなくても何かになりきるのは得意だった。
これまでの生活環境に加え、部活動で培った演技力は誰にも負けない自信がある。
マスカラやアイシャドウは所詮もとから自分に備わっている魅力を強調するだけのもの。
手鏡の中の自分に「よし!」と気合いを送るとメイクアップ道具を鞄にしまった。
トレードマークの縦ロールを解いた松平瞳子は、そっと茂みの間から顔を出し、
グランドに固まっているイベント参加者集団を眺めた。


企画に参加するつもりは最初からないのだが、
この場にいることがバレては都合が悪い。
先日、勢いでクラスメイトに「行かない」旨を告げてしまったからだ。
だって、ミーハーに思われるのはイヤだったから。
それにカードなんか別にどうだっていいのだ。
ただ、由乃さまを見たい。由乃さまのことを知りたい。
瞳子の関心は、純粋にそれだけだった。


大勢いる参加者の中から由乃さまを見つけるのは簡単だった。
トレードマークの長い三つ編み。
由乃さまの背中で、時折弾んでいる。
こちらの見方次第で怒っているようにも見えるし楽しそうにも見える。
不思議だ。
でも、今日は何だか悲しそうに見える。なぜ――。
そんなことを考えてると、ふいに三つ編みが激しく揺れた。
ちょうど新聞部の部長がブゥトンに「ハンデ」を告げているところだ。
あからさまに嫌な顔をして抗議しているが、中等部でも有名なあの三奈子さまだ。
そうと決めたら何が何でも押し切るに決まっている。
開始の合図から5分、ジリジリしていたブゥトンの二人がいよいよ歩き出した。
と、そこへロサ・フェティダがやって来て何やら言うと、由乃さまがまたあからさまに嫌な顔をした。
まさか、ロサ・フェティダから参加を止めるように、とでも言われているのだろうか。
だとしたら、由乃さまを見られるのは高等部へ進学する2ヶ月後になるのか――。
夢の終わりのように思えて、急に寂しくなった。
程なくロサ・キネンシス・アン・ブゥトンプティ・スールである福沢祐巳さまが
濡れ雑巾を手に走って帰ってきた。
由乃さまはそれを受け取ると、必死に足下を擦っている。
どうやら、待ってる間の”ジリジリ”で靴にはねた泥を落としているらしい。
それにしても祥子お姉さまったら、どうしてあんな普通っぽい人間を妹にしたのかしら。
あと数ヶ月待ってくだされば、瞳子がスールになって差し上げたのに。


そんなことを考えてるうちに、いつの間にか由乃さまの姿はなくなっていた。
グラウンドを見渡しても、どこにも”長い三つ編み”はない。
(しまった…)
『名探偵瞳子の極秘潜入捜査』は早くも出だしから頓挫。
第四章『図書館の奇蹟』、の演出は感動の出来だったのに…。
しかし、今更台本を変更してあれこれ考えてる暇はない。
瞳子は変装や演技に加え、気持ちの切り替えも得意だった。
ギュッと拳を握りしめ、小走りで校舎の方へと向かった。
が、探せども高等部の生徒ばかりで由乃さまの姿はない。
いったいどこにいるのだろう。
由乃さまは人間で、カードとは違って絶えず動いている。
今の瞳子にはカードを探す方がよっぽど簡単に思えた。
途中、二股の分かれ道でマリア様に短くお祈りを捧げた。
――願わくば、クラスメイトと会いませんように。


しかし、瞳子のそんな願いもむなしく、10メートル先にクラスメイトの内藤笙子さんを見つけた。
心臓が飛び出るくらい驚いたが、間一髪、日頃の鍛錬の成果が出たらしい。
「こ、この辺りにカードがありそうだわね」
少々ギコちなくはなったが、素早く横の茂みに身を隠すことができた。
変装に自信がないわけではないが、わざわざこちらから晒してバレる危険を高めることもあるまい。
慎重に慎重を重ねるくらい、でちょうどいいのだ。


それにしても――と、笙子さんに目を向けた。
すぐ側には、あの有名な写真部の武嶋蔦子さんまでいる。
彼女の胸元でキラりと光るカメラにゾッとした。
バレンタイン企画の何気ない一コマとして学園祭にでも展示されたら終わりだ。
何度もしつこいようだが、変装に自信がないわけではない。慎重なのだ。
チラッと見られるくらいなら大丈夫であろうが、写真でじーっと見られると怪しくなる。
ここはしばらく身を隠すしかない、とそう決心した瞬間、
校舎脇から長い三つ編みの少女が飛び出してきた。
ちなみに、その後ろに付けているのは、クラスメイトの敦子さん。


日頃の鍛錬の成果、はこの際関係ない。
声が漏れないようにとっさに口を押さえた。
(え―――ッ!!!)
声は出せない。
声を出したら、終わりだ。
目の前にはクラスメイトと写真部の有名人。
何やら話してるので、きっとお知り合いなのだろう。
彼女のお姉さんは高等部3年生だと聞く。
笙子さんはその実の妹なのだから、高等部に知り合いがいてもおかしくはないのだ。


それにしても。
ああ、由乃さまが遠くなっていく…。
瞳子は口を覆っていた手を離すと、茂みの中で一人深いため息をついた。

急ごしらえだし、もともと文章力もないので、その辺は勘弁して下さい。


さて、由乃の妹は瞳子しかいないという理由。
それは、瞳子っていうのは「曲がったものが大嫌い」な人間だからです。
幼い頃から一癖も二癖もあるお嬢様方の中で育って、
目の前にある笑顔が、本当に笑顔かは熟慮してみないと分からない。
全部とはいいませんが、恐らくその辺が瞳子の性格を決定付けたのだと思います。


だから、いい子ちゃんに見えたり甘く見えたりする祐巳ではダメなんです。
もちろん、瞳子は口ではああいってますが、本気で嫌ってるのではなく、
憧れの裏返しで、というのも祐巳由乃と同じくらいストレートなんですよね。
ただ、祐巳の場合は(特定の条件下で)勘がずば抜けてまして、
その辺が許せない、理解できない、つまり、憧れてやまないっていうことになります。


確かに、一見すると姉は祐巳でも良くって、
瞳子ちゃんも、本当に気になるのは由乃なのに、
一緒にいると自然と祐巳も同じように気になりはじめている。
でも、そこを説明、理解できるほど瞳子は頭が回らない。
だから、三奈子さんに質問するんです。
「三奈子さままで、なぜ祐巳さまについて行かれるのです?」(『インライブラリー』77ページ)


そこで返ってきた答えは、というと、
「そりゃ、気になるからに決まっているじゃない。ことの顛末を明日聞くより、
今自分の目で確かめた方がだんぜん面白いもの」(『インライブラリー』78ページ)
由乃に通じる気持ちと、祐巳に通じる気持ちの違いがやっと分かって、
そこでスーっと心が晴れるわけなんですよね、瞳子は。
だから、決して瞳子祐巳の妹にはなりえない。
そこで瞳子由乃を考えてみると、結構見えてくるものなんです。
瞳子由乃が望むものを与えてやれますし、由乃瞳子が望むものを与えてやれるってことが。


由乃は妹に何を求めるのかというと、たぶん対等の存在だと思います。
分かりやすくいうと、ライバル。
具体的に言うと、真っ直ぐにストレートに向かってきてくれる存在のことです。
祐巳も親友なのですけど、それは違う種類の親友です。
並んで歩くのではなく、一緒に戦う、または同じ土俵で戦い合う友、
それこそ由乃は求めてるのではないかなぁ、と思うんです。
だから、可南子ではダメで、やっぱり瞳子しかいないんですよね。
先輩相手にストレートに挑んでくる一年生っていうのは。
それに、由乃は剣道の試合だって控えてますし、
これは瞳子を使える絶好の機会なんじゃないかな、っていう。


逆に、瞳子は姉に何を求めるのかというと、曲がってないこと、と、居場所です。
OK大作戦の柏木の呪いは、瞳子の両親の離婚の危機だったりするのかな、
なんて妄想(暴走)してしまいますけど、居場所を求めてるのは確か。
部活動をしてるのも、恐らく根底の意味では心の拠り所を置くっていう、
その辺が絡んでるんじゃないか、と思います。
可南子が不幸ぶってるのを見て苛立つのは、
それは瞳子の過去が関係しているのかもしれません。
接点があるっていう意味ではなく、もっと深刻で不幸だった、とかね。
瞳子は居場所がなくなると、すぐ自暴自棄になってしまう。
だから、真っ直ぐで安心できる由乃の側っていうのは、瞳子にとっては最適な場所な気がします。


というわけで、以上が新刊発売一ヶ月前の予想です。
この予想(妄想)がどのくらい裏切られるのか、それに対して非常に興味があります。
「ええっー!?」と心の底から驚きたい。
予想を裏切られるのって、それは私にとって無上の喜びです。


さて、『インライブラリー』では、祥子さまは睡眠不足なようで、
前巻で保健室の帰りに蓉子さまに言うようにいわれ、その勢いを借りて祐巳に言ってみたものの、
祐巳が遠くに行ってしまいそうで気が気でない、それが物語上の一番早い時間の祥子でしょう。
そろそろ祐巳から旅立たないといけない。
でも、祐巳なしでやっていく自信がない。
そんな祥子の状態を察してかどうかは分かりませんが、可南子ちゃんは口を噤んだまま。
祐巳ともうひとイベントあれば、くっつくことは目に見えている。
条件はほとんど整ってますし。
それはいい。
しかし、祥子はよくない。
なぜなら、祥子に旅立つ準備ができていないから。


祐巳も、前途多難です。


追伸:
上記に書いた瞳子視点の創作小説ですけど、
もちろん、書き上げた理由は、由乃瞳子がスールになるっていう確信があったからですが、
それをふまえて小説を読み直してみると、結構私的には楽しめるんです。
例えば『レディ、GO!』で昼休みのフォークダンスの際、
瞳子ちゃんが男性パートにいる理由。
令とペアでフォークダンスに参加すると踏んでた瞳子でしたが、
裏をかいて「令を監視するために」男性パートに由乃が入ってしまった。
んで、祐巳の会話となるんですよね。


祐巳「だって、祥子さまと踊りたかったから、瞳子ちゃんは
フォークダンスに参加したんでしょ。なのに」(『レディ、GO!』154ページ)
瞳子「え?ああ……、まあそうです。ホント、残念でした」(『レディ、GO!』155ページ)


もちろん、祐巳と踊りたかった、っていうようにも取れますけどね。
今野さんがストレートだったらこちらの仮定を信じたんですけれど…、どうなんでしょう。